2023.08.06
夏休み特別講座第1弾 お城へいざ参ろう! 湖畔に聳える山城 津久井城 後編②
後編①に引き続き、津久井城編をお届けします!
長かった「津久井城編」もついに最後…今回は詰城部をご紹介します!
前編①で紹介したように、山頂にある津久井城の詰城部は「本城曲輪」「太鼓曲輪」「飯綱曲輪」という3つの曲輪を中心に、各尾根に小さな曲輪が配置されています。曲輪群は堡塁(敵の攻撃を防ぐために造った陣地)と虎口を連鎖させたつくりになっているため、居住や駐屯に使えるスペースには限られており、発掘調査では建物跡があまり見つかっていません。
3つの曲輪のポイント
①本城曲輪
本城曲輪は津久井城の中心で、その周囲には「土蔵曲輪」「米曲輪」「米蔵曲輪」と呼ばれる小さな曲輪があります。戦時には城主や兵が立てこもる場所で、大きさは約400㎡となっています。
今回の地図は『神奈川中世城郭図鑑』と『津久井城ものがたり』を参考に書いています。
〇土塁と虎口
本城曲輪の西と南を囲うようにL字型の土塁が残っています。土塁の長さはそれぞれ約20mで、高さは最大2mとなっています。
↑本城曲輪の内側から見た土塁
↑本城曲輪の入口部分
正面に土塁があり、右手の土塁が終わる部分が虎口
本城曲輪の虎口からは礎石が見つかっており、ここには門があったと考えられています。
間口は約270㎝、奥行きは約90㎝と奥行きが狭いことなどから、ここの門は「塀重門(へいじゅうもん)」という柱(鏡柱)と門扉だけの簡易な門であったと想定されています。
↑本城曲輪の内側から見た虎口部分
中央の木と右側の土塁の間あたりに塀重門がありました。
〇引橋と堀切
本城曲輪と太鼓曲輪の間の堀切には木橋が架かっていたとされています。
堀切の幅は約20mで、堀切の端はそれぞれ竪堀に続いています。
木橋の構造はわかっていませんが、簡単に取り壊したり移動したりできるもので、敵が攻めてきたときには橋を本城曲輪側に引いて、敵を渡らせないようにする「引橋」であったと考えられています。
↑引橋が架かっていたところ(本城曲輪側から太鼓曲輪側を撮影しています)
②太鼓曲輪
太鼓曲輪は長さ約50mあり、飯綱曲輪側を土塁で囲み、さらに斜面を急角度に削って切岸とすることで、飯綱曲輪方面に対する防御を固めています。
土塁の下から西南へ向かう尾根には「家老屋敷」と呼ばれる平場が造られており、さらに下には曲輪が2つ造られています。
危険な場所にあるため、実物を見ることはできませんが、「家老屋敷」には戦国時代の石垣が残っているそうです。石はこの城山から切り出されたもので、曲輪の周縁部分に土留めのために石積みをしたと考えられています。
↑こちらが「家老屋敷」の石積み(神奈川県立津久井湖城山公園HPより引用(6月24日閲覧) http://www.kanagawa-park.or.jp/tsukuikoshiroyama/history.html
③飯綱曲輪
飯綱曲輪は東西約23m・南北約15mの長方形をしており、現在は飯綱神社の祠があります。南側には「鐘撞堂・烽火台」「みはらし」と呼ばれる曲輪があり、さらにその先にも平場が続いています。
北側の曲輪には樹齢900年とされる大杉がありましたが、2013年の落雷で今は根元5mが残っています。
特徴的な「竪堀」
〇とばぼり
津久井城は長大な竪堀が特徴的で、竪堀のうち9本程度は山麓まで続いています。
それがよくわかるのが本城曲輪の北方面につくられた「とばぼり」で、相模川付近まで延びていたと考えられています。現在国道によって断ち切られていますが、その国道からとばぼりの様子がよくわかります!
↑国道から見た「とばぼり」
「とばぼり」に架かっている橋を渡ることもできます!
「とばぼり」のように山麓まで達するような竪堀は、南~東~北東にかけての斜面に集中しており、比較的斜面の急な北の竪堀は短めとなっています。そのため、緩斜面での敵兵の動きを制約すること、正確な場所は不明なものの、登城路と長大な竪堀が組合せて敵軍の動きを制約する意図があったと考えられています。
〇畝状竪堀群(うねじょうたてぼりぐん)
畝状竪堀群とは竪堀を複数並べたもののことで、本城曲輪の西側には幅2m程度の竪堀が並んでいます。(最初の地図をご確認ください!)
敵が攻めてくる場合、正面になることが想定される場所であったため、厳重に防御し、本城曲輪の背後に迂回されることを徹底的に阻止しようとしたと考えられています。
後北条氏の城のなかで畝状竪堀群があるのは、後北条氏が最末期(小田原合戦前)に改修した可能性が高い城であり、これまで後北条氏が戦ってきた経験のなかで、畝状竪堀群の有効性を認識した結果とも考えられています。
畝状竪堀群は、甲斐の武田氏の城に使用されていることが多いものでした。津久井城のように領国の境にある城は、何かしらの相互影響があったことを想定する必要があるそうで、特にこの地域は「敵知行半所務」であることから、甲斐の武田氏の影響も考える必要があるようです。
後北条氏の帳面には、甲斐の武田氏と接する一部地域に「敵知行半所務」と記しており、そこにある村は後北条氏と武田氏の領主に半分ずつ年貢を納めることで紛争を回避していたと考えられています。武田氏の重臣が所有する土地もあったようで、この辺りはどちらに属するか不安定な地域だったようです。
戦略と城
【津久井城の特徴】
尾根を堀切で遮断する意識よりも、堡塁による防御の意識を強く持ってつくられた城
堀切で尾根を遮断することで守ることが山城の基本ですが、津久井城は3か所しか堀切をつくっていません。一方で、土塁や石塁で囲んだ堡塁状の曲輪や枡形虎口が多く築かれています。
【対豊臣戦に備えた後北条氏最末期の築城の特徴】
・堀切による尾根の遮断よりも土塁囲みの堡塁を重視する点
・長大な竪堀を用いる点
・局所的に畝状竪堀群を用いる点
どちらの特徴にも戦略的な理由がありました。では、その理由とはどんなものだったのでしょうか?
理由①「鉄砲の普及」と「津久井城の地質」
堡塁を重視した理由を知る上で大切なのが「鉄砲を有効活用する戦い方」です。
鉄砲は遠距離射撃には向かない武器で、近くから直線的に射撃する援護射撃に適した武器でした。
城を攻める側は鉄砲を有効活用するために、鉄砲を持つ兵が竹などでできた盾を構えながら射撃を繰り返しながら進み、組織的な援護射撃の下に兵が突撃する戦法をとるようになりました。
すると、城を守る側はその援護射撃の的にならないように迎え撃たなければならないため、土塁や石垣(石塁)のような高さのある遮蔽物が必要になります。
↓あくまでイメージですが、こんな感じで戦っていたようです。(黒兵が敵、青兵が津久井城兵)
これまで紹介した城でも見たように、土塁(石塁)は横堀とセットにすることで守りが強化されます。津久井城のように石がとれるような山は尾根が痩せており、横堀は掘りにくい地質だそうです。そこで横堀や堀切をつくらず、土や石を高く積み上げることで守りの強化を目指したため、津久井城は堡塁を重視したと考えられています。
理由②「とにかく初日を耐えるため」
戦国時代の城での戦いは、初日の強襲をいかに耐えるかが城側にとって重要な意味を持ちました。初日の攻撃を耐えれば、攻める側は宿営地を設営しながら仕切り直すことになり、戦局が一気に膠着します。特に小田原合戦において、豊臣軍は大軍であることが想定されるため、まずは相手に時間を消耗させる戦略をとる必要がありました。
では、時間を消耗させるためにはどうしたらいいのでしょうか?
〇長大な竪堀と畝状竪堀群で敵の動きを制約する
敵は大軍であり、一斉に全方向から攻めてこられたら負けてしまいます。竪堀によって山腹を攻め登ってくる敵の動きを分断・制約し、堡塁からの攻撃で捕捉できる場所に敵を誘い込みます。迎え撃つ側としては、敵の動きを規制できているため、そこへ集中的に堡塁から攻撃することで数的不利を補うことができます。
〇先鋒を滅し続ける
敵が規制された登城路から強襲をしてきたら、堡塁から鉄砲や弓矢で応戦します。もしもそこを突破されたら、虎口と堡塁が連鎖した空間に敵の先鋒を引き入れて封殺します。
津久井城は小さな曲輪が連なっており、縦に部屋が続いているようなつくりになっています。部屋に入ってきた敵を滅し続け、もし次の部屋に侵入されたら次の部屋で応戦というように、とにかく攻めてきた先鋒を滅し続けることで時間を稼ぎます。
津久井城はこうした戦略のもと、改修されていきました。
小田原合戦では結果的に負けてしまいましたが、後北条氏と内藤氏がこの戦いに勝とうとしていたことがお城のつくりからもわかります!
長かった津久井城編も最後となりました。
今回は「戦略」という目線を持ってみましたが、いかがでしょうか。
津久井城は屋敷・庭園といった「生活面」、長大な竪堀・土塁/石垣といった「戦闘面」どちらも見ることができるお城で、城が持つ複数の役割を感じることができました!
参考
『津久井町史 通史編 原始・古代・中世』 2016年、相模原市
『津久井城ものがたり』 2018年、神奈川県公園協会
『津久井城の調査3 2006-2008』 2009年、津久井城遺跡調査団
『神奈川中世城郭図鑑』 2015年、戎光祥出版、
西股総生 『「東国の城」の進化と歴史』 2016年、河出書房新社
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