2021.03.29
今夜もアンダーステア BMW M3 GTR たった10台のP型エンジン搭載の市販されたレーシングカー
- 初めまして、ライターの宗(そう)と申します。
「今夜もアンダーステア」というタイトルを授かりまして、BMW車両のみならずさまざまな興味分野に「どんどん突っ込む」ことをモットーに筆を取らせていただきます。
あえて「アンダーステア」について解説は致しません。おそらく多くの方には聞き慣れない語句も多数並びます。店舗に来ていただければご説明致しますので、お気軽にお越しください。
現在販売中のBMWのM、Z、X、iを含む24のシリーズと、またエンジン種類、駆動方式、デザインラインが関わることで、そこから枝分かれること総数200車種ほど存在する、各モデル一つ一つにクローズアップして特集致します。
選択肢が豊富なBMWにおいて着地点を見定めている最中の方へ、参考材料となってくれることを期待しております。
可能な限りメーカーから公開されている情報をもとにしております。
意見に関しては私個人の主観が多く入ることを、ご理解ください。
一本目の記事は番外編の第0回とさせていただきまして、過去のモデルよりかなり濃いめの記事をお楽しみください。
では、今回の特集は、
M3 GTR
BMWを知る皆さま、初めてBMWを「良いな」と思ったのはどのモデルでしょうか?
私はこれです。
四代目3シリーズにして三代目M3、ファクトリーコードではE46と呼ばれている車の、スペシャルモデルです。
M3 CSLではありません。
2000年に入り、新しくなったM3は、市販されている通常のモデルにさらなる改良を加え、レース参戦車両としての役目を与えられました。
それこそがM3 GTRです。
エクステリアは通常のM3の面影をとどめていますが、さらに張り出したフェンダーや大型リヤウイング、リヤディフューザーが目立つ変更点です。
レースシーンでの活躍は、2001年のアメリカン・ルマン・シリーズ(ALMS)や2004年と2005年のニュルブルクリンク24時間レースの総合優勝など、決して多くなかった登場ながらも確実に戦果を上げたことで印象に残りました。
そしてたった10台のみ、ロードバージョンも存在しました。市販車ベースの車で参戦するレースに、レース参戦のためだけに製造された車で参戦するというのは基本的に掟破りです。そのため、数の売れている車をベースにある程度改造を加えたモデルを市販した上で、それをまたさらに改造してレース車両を製造するというのが一般的です。よくホモロゲーション取得用に生産されたという言い方をされます。
そういった車は限定モデルとしてコレクターズアイテムになりますが、このM3 GTR Streetはこの情報社会でもほとんど痕跡を見つけることができません。そもそも知らないという方がほとんどなのではないでしょうか。
バーチャルワールドでの活躍、テレビゲームでレジェンド的存在に
2005年にEAから発売された「Need For Speed」シリーズの「Most Wanted」の主人公の愛車であり、パッケージを飾る車です。
ちなみにゲームの内容はというと、教育にはよろしくないアウトローなもの。警察をやり過ごしながらストリートレースを繰り返し、最速のチャンプと名声獲得を目指すのです(メーカーもよく許可を出したな…)。
M3 GTRは主人公の物語を通しての愛車ですが、初めのレースでインチキに合い敗戦し、車を勝者に奪われてしまうところから始まります。その後、そのレースでM3 GTRを手にしたライバルは、その車の速さもあるのですが15人のランカーのトップに上り詰めます。愛車を取り返すため、レースに勝って賞金を手に入れ、車をカスタマイズして次のレースに出るルーティンがはじまるのです。
なおゲーム内に登場するBMWはこの1車種のみ。しかもチュートリアルで乗った後は、最後の敵として立ちはだかるというストーリーの流れがあるため、最後のドライブまで乗れません。参戦車両はさまざま、当時もてはやされていたスーパーカー、メルセデス・SLRマクラーレンや、ランボルギーニ・ムルシエラゴ等も数々参加しているのですが、このM3 GTRがなぜか最速のポジションに居座ります。
ドライビングシミュレータと少し違った、ドライブを楽しめるゲームとして非常に面白いゲームでしたので、シリーズを通してもかなりファンが多かった作品という印象です。この青と銀のツートーンをまとったM3 GTRはその後さまざまな作品にゲスト参戦します。
これがレース参戦車両と全く同じであると理解していなかった当時の私は、その控えめな見た目になぜヒーローズカーなのか理解ができなかった記憶があります。
リアルワールドでの活躍、レースでの目覚ましい戦績
当時F1に力を入れていたBMWでしたが、市販車ベースカテゴリのレースにおいて活躍していたのはM3 GTRでした。ALMSにおいて2000年にE36型からE46型にシフトしたM3は当初、3.2L直6NAエンジンを用いて戦い、ポルシェ911 GT3が席巻する中で惜しくもシーズン優勝には手が届きませんでした。しかし翌年、オフィシャルチームのBMW Motorsportsがレース専用のバンク角度90°のV8NA、P60B40型エンジンを用いて参戦し、圧倒的な戦績でシーズン優勝を決めます。
しかし早々に変更されたレギュレーションにより、一定数を市販していないエンジンおよび車両での参加は認められず、ALMSを去ることになります。
そこから数年置き、日進月歩のレースの世界にもかかわらずエンジンやエクステリアに大きな変更はないまま2003年からニュルブルクリンク24時間に同型車両で参戦。そして2004年と2005年を連続してシーズン優勝を決めています。
公道仕様で、希少なイニシャル”P”がつくエンジン
某車もの有名漫画作品に似たサブタイトルとともに紹介するのは、エンジンについてです。
エンジン名には、現在も続いている慣習があります。通常、Mモデルというとエンジン型式名に特徴があり、例えばE46型の直列6気筒においてはMモデルではない330Ciの3.0LエンジンがM54B30という名称であったのに対し、M3の3.2LエンジンとなるとS54B32という名称に代わり、頭文字のアルファベットがBMW M製であることを示す“S”へと変化します。
対してM3 GTRはP60B40という名称で、頭文字のアルファベットはP、これはBMW Motorsports製であることを示しています。
また10台のみの市販車も最高出力は違いながらもほぼ同様のこのV8エンジンを積んでいるというのがアツいところです。
以後発表されているM3、M4は、限定モデルに至ってもエンジン名はいずれも頭文字“S”であり、私が知る限り後にも先にも、イニシャル“P”のエンジンで公道を走っているのはこのM3 GTRだけでしょう。
まだYouTubeなど動画メディアが普及する前の車ですので、動いているシーンやエンジンサウンドは資料があまり多くはありません。以下に2004年のニュルブルクリンクのオンボード動画のリンクを記載します。
BMW M3 GTR Nurburgring Hans Joachim Stuck
少し前にこの動画を見つけた時、 「ん?これBMWのV8?」と疑問に思ったことがあります。吠えるようなV8エンジンの響きが特徴的ですよね。同じV8でも、このV8エンジンはよくあるドロドロっという排気音のV8とは少し違います。
V8エンジンは奥が深く、8つあるピストンをどう配置し、どのような順番で点火していくか、どう排気を取り回すかのバリエーションが非常に多いのです。これにはメーカーごとの特色が非常に多く表れます。
このエンジンは、いきなり他メーカーを引き合いに出し恐縮ですが、言うなればフェラーリが採用していることで有名なフラットプレーンクランクシャフト型のV8です。振動は大きいですが、近くのピストン同士の排気が干渉しにくいため、空気の出入りが多い高回転型エンジンに向いた特性といわれます。また排気のレイアウトもしやすくパッケージングデザインがしやすいなどの利点があると聞きます。フェラーリだけでなく、ロータス・エスプリや、新しいものだとフォード・マスタングも該当します。
点火順序を掘り下げて確認してみました。
BMWにおけるV8エンジンの点火順序の一例として以下をご覧ください。
エンジン名 / 点火順に並んだピストン番号 / 代表搭載車種と表しています。
BMW P60B40 / 1-8-3-6-4-5-2-7 / (E46 M3 GTR)
BMW S65B40 / 1-5-4-8-7-2-6-3 / (E92 M3)
BMW S62B50 / 1-8-4-3-6-5-7-2 / (E39 M5)
BMW S63B44 / 1-5-4-8-6-3-7-2 / (F10 M5等)
BMW N63B44 / 1-5-4-8-6-3-7-2 / (G15 M850ix等)
Mercedes M178 / 1-8-2-7-4-5-3-6 / (AMG GT Black series)
Ferrari F136 / 1-5-3-7-4-8-2-6 / (Ferrari V8モデル、フェラーリにはエンジンにピストン番号と点火順序が記された銘板があり、そこに記されています)
BMWのピストン番号は運転席から見て右側のバンクの奥から1, 2, 3, 4と振り、左側バンクの奥から5, 6, 7, 8と振っているそうです。
点火順序で1, 2, 3, 4のいずれか同士が連続、5, 6, 7, 8のいずれか同士が連続すると、片側バンクで不等間隔爆発となり、排気干渉が生まれます。
また調べたところによると、フェラーリやマセラティなど、イタリア系のメーカーはピストン番号の振り方が違い、左バンク奥から8, 7, 6, 5と番号を振っている模様。となると、点火順序をピストン番号でみると異なりますが、物理的な位置は5=8, 6=7, 7=6, 8=5で実際には同じことになります。
S62は4-3、S65は8-7が、S63,とN63は8-6が同バンクで連続して点火となっていますが、P60やFerrariのF136にはそれがありません。いうなれば直4エンジンが二つ並んでいるようなものです。
この不等間隔爆発が含まれるタイプはクロスプレーンクランクシャフト型のV8です。振動特性はこちらのほうが優れるため、乗用車、高級セダンに採用例が多いです。
BMWも基本的にはクロスプレーン型がほとんどです。
そして今日まで、このエンジンを足掛かりにし、BMWはハコ車レースではV8を使い続けることとなります。耐久レースで活躍したE92 M3 GT2やE89 Z4 GT3、F13M M6 GT3、F92 M8 GTE。また2012年、20年近くぶりに復帰したDTMに参戦した、E92 M3 DTMとF82 M4 DTM、M6 GT3やM8 GTEもいずれもV8エンジンとなっています。
そんなこんなで、この車のおかげでV8の奥深さに取り込まれてしまった筆者なのです。
この車の登場から20年経ち、時代は移り変わって今はターボエンジン全盛期。
今年度からM4 DTMもV8NAを捨て、直4ターボに切り替わりました。
次回から現行販売車両の特集が基本となります。
まずはBMWのブランドキャラクターそのものの具現化と思っております、M5最新型のご紹介です。
お楽しみに。
BMW調布のポッドキャストでは 新型のX4Mについて話しています。ぜひお聴きください。
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