2021.03.28

molto rit  ソロピアノと映画音楽

ピアニスト竹内直子が 生演奏の仕事を通して感じたことを、偏愛する 映画・美味しいもの・台湾などのテーマから 徒然に綴って行きたいと思います。

ミュゼットとパピヨン

『パピヨン』-Theme from Papillon /『太陽がいっぱい』-Plein Soleil

ふたつ並べて云々、ということではなくて、
ニーノロータの「太陽がいっぱい」のメロディは非常に力があって、
ピアノで弾いていてもそのドラマティックなメロディラインと映像感に惹きつけられるし、
色鮮やかで演奏しやすい。手ごたえがしっかりしている。

一方 パピヨンのテーマの方は、実に淡々としていて、インターバルが狭く、メロディの動きが静かだ。
もちろんインターバルの広狭だけでは決まらないけれど、
映画音楽としての存在感、映像感を出すための野心に対して欲がない感触を受ける。

フランスが映画制作に絡んでいることもあり、この三拍子はミュゼットを意識したところもあると思う。
でもこのメロディにミュゼットは合わない。演奏してみると分かる。

旋律に映像感を持たせるため、また映像に奥行きを持たせるためには、
良く言われる、「広いインターバル」がとても有効である。
多く見られるのはオクターブ上昇で、Over the rainbow、雨に唄えば、タラのテーマ、
枚挙に暇がないくらいたくさん使われている。

ピアノライブ

画像クリックで映画音楽のピアノライブ動画へ

 

私自身も、映画音楽を弾いている時に、グイっとオクターブ上げる奏法を良く使う。
2つの音を同時にオクターブで弾くのではなくて、
単音のメロディの音域を唐突に「ぐにゃっ」とした感じでオクターブ上にして、感情の高まりを表す。
それは、自然と体から出てきたソロピアノのひとつの奏法。

心象風景にかくれる映画音楽

思えば、奏法を工夫する原動力となっているのは、
パピヨンのテーマ然り、「ギタリストが書いた、何もかもがギターな曲」、「弦楽(もしくは他の持続音の楽器)を前提としたサウンドトラック」
——つまり本来ピアノ演奏に向かない曲を、ソロピアノでどう表現するかを考えるのが好きなのだと思う。もちろん、深く愛情を持てる曲について。
地味な研究だけれど、ものすごくむずかしい。

幼い頃にテレビの洋画劇場で見た映画『パピヨン』は、あまりにも鮮烈で、
凄まじい映画の内容だけが心に残り、思えば映画音楽の旋律は忘れてしまっていた。
スタンダードとして演奏されることも少ない。
作品というよりは、映像を演出する「モティーフ」として、半音ずつ上がっていって緊迫感を強め、淡々と繰り返されるメロディ。

だけど、この映画は名作だと私は思う。そして度々登場するこのモティーフ、
最後の脱走のシーンにも見送るように淡々と流れる「Free as the wind 」は、これ以上ない演出の大役を果たしている。

そして、ここ数年は、改めて聴き直し、譜面を書き起こして、現場でこのメロディを時々弾いている。

私の想像の範囲だけれど、この曲を創ったジェリーゴールドスミスという作曲家が、
映画において音楽のみが華々しく一人歩きしてしまうようなことを好まなかったのだと思う。
曲の強さがフィルムと拮抗して相乗効果を生む場合もあるけれど、そうでない場合ももちろん多々あった。
「映像の演出として音楽を創造する」、という力に素晴らしく長けた人だったのだろうと、改めて認識した。
ほんとうに「映画音楽」と一口に言っても、さまざまな関わり方があり、
それを後に演奏させていただくにあたって、ピアノ一台でアレンジして説得力の出せる曲は限られている。
そして、私が弾くときには、作曲者の作品に対する愛情を、全力で大切にしたいと、いつも思っている。

 

 

 

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Writerこの記事をかいた人

竹内直子 Naoko Takeuchi Pianist / Song Writer

竹内直子 Naoko Takeuchi Pianist / Song Writer

4歳よりクラシックピアノ〜学生時代のバンドアンサンブル〜ジャズピアノを経て、 22歳でプロ活動を開始。’03/3、青山円形劇場にて、宮藤官九郎氏 演出の舞台演奏を手がける。現在、オリジナル曲の創作・表現をコアに、日本の唱歌の現代アレンジメントなど、常に 新しい表現への挑戦を続けている。 ジャズを基軸とする生演奏を企業へ提案・企画・運用に携わり、技術的・人的クオリティの高い生演奏の普及に貢献している。

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